【創作】ソムチャーイ・デチャと不思議な扉(短編)

僕の名前はタカナシ・タケル。僕がその男に出会ったのは、タイ旅行に行った時だ。親戚の家に、ソムチャーイ・デチャという男がいた。彼も僕の親戚である。

「タカナシくん、君は小説家を目指しているんだってね」

「はい、そうです」

「僕も、君と同じで小説家を目指しているんだ。名前はソムチャーイ、よろしく!」

「あっ、よろしくお願いします…」

僕はその男と握手して、お互いの趣味を語り合った。彼は日本の文化が好きで、そういうアニメや漫画、映画や小説を、腐るほど見ているという。僕は、彼ほど趣味が広くないので恥ずかしくなってしまったが、彼は気にしなかった。

「へえ、君はファンタジー小説が書きたいんだね。異世界転生ってやつ?それとも転移?」

「いや、ただの異世界かな……。正直、ちょっと決まってないんだ。リアリティのある世界観が書きたいんだけど、僕にはそんな知識ないし」

そう言うと、彼はずいぶん笑った。

「ハッハッハ、ファンタジーは現実じゃないんだよ。そんなにリアリティを追求するなら、SFか歴史ものでも書くべきだろうさ」

「そうかなあ……でも、『ヨーロッパ風のファンタジーなのにジャガイモやトマトが出るのは変だ』とか、細かいこと言われたくないし…」

ジャガイモやトマトは南米原産であり、コロンブスアメリカを『発見』する前のヨーロッパには存在しなかった野菜だ。

「そりゃ細かいな。けど、原産地でいうならウマの原産地は北米だぜ。馬のいないヨーロッパなんて想像できるか?」

「あ〜、え、そうなの?」

たしかに、大抵のファンタジーには馬や騎士が登場する。しかし、ウマが北米原産だとは知らなかった。どうやってユーラシアに来たんだろう。

ソムチャーイは続けた。

「人間なんかアフリカ原産だぜ。しかも神が作ったんじゃなくて、猿みたいな動物から進化したんだ。そうやって、この世界の歴史と地理を当てはめたら、ファンタジーにはならんでしょ!」

「そ…そうか〜〜!」

「良いんだよコロンブスなんか。気にしなくて。ドラゴンの隣で肉じゃが食ってもムエタイやっても誰も怒らない。大体お前は、トムヤムクンを食う時に『あ〜、唐辛子だー☆コロンブスの味がするー☆』とか考えながら食うのか?」

「? 唐辛子って何か関係あるの?」

「南米原産だよっっ!!!」

ソムチャーイの激しいツッコミを受けて、僕もようやく納得してきた。

「なるほどね……君の言うことを聞いて少しは納得したよ。それに、よく考えたら僕の作品にコロンブスは関係なかった!」

「ほう、それはどういう事なんだ?」

かぐや姫をモチーフにした和風ファンタジーだから、最初からトマトもジャガイモも出てこないんだよ!」

僕の言葉を聞いて、彼はズッコけた。

さて、そんなやりとりをした後、ソムチャーイは「見せたいものがある」と言った。

「タカナシくん!君、口は固い方か?」

「え?まあまあですけど」

「僕が今から見せる物を、絶対にバラさないと誓ってくれるかな?」

「ああはい」

僕の適当な返事に対して、彼が見せた物はとてつもない秘密だった。なぜなら、クローゼットの中には草原が広がっていたからだ。

「こ、これは…」

「このクローゼットは魔法がかかっていてね、開ける前に念じれば、どんな時代のどんな国にも行けるんだ。さあ入って」

彼が先に入り、僕はそれに続いた。彼の案内に従って、僕は草原を歩いた。

「ここはパラレルワールドの一つでね。恐竜が絶滅せず、魔法文明が栄えて、古代ローマと北米が接触を果たした時代なんだ」

「は、へええー……」

頭の上をドラゴンが飛び、草原に影をつくりながら、街の方へ向かっていった。その背中には人が乗っていた。

「……それでね、古代アトランティスの話があるだろう。この世界ではアトランティス文明がギリシャをボコボコにしてだな……。あれ?聞いてる?」

「ご、ごめん。ドラゴンが飛んでるなあと思って……」

「いいだろ。あれは恐竜の生き残りを家畜化した生き物で、乗り物としては馬以上に高級なんだ。乗りたい?」

「遠慮しとく」

街には人が賑わい、ヨーロッパのどの時代ともつかない絶妙な雰囲気だった。スマホがあれば撮ってみたかったが、残念ながら忘れてしまった。また、街の人々は異世界人を見慣れているのか、僕たちの格好をいちいち気にしなかった。ちなみに、ソムチャーイはこの国の言葉をうまく使えるようだった。

「なあレストラン行こうぜ。この街のレストランはどこも美味くてな。まるでサ〇ゼリヤみたいだぞ」

もっとマシな例えはなかったのだろうか。しかし、現地の料理はたしかに美味しかったし、サ〇ゼリヤみたいな親しみやすい味がした。

「ほら見ろ。西暦で1200年くらい、場所はイタリア半島なのに、もうパスタにトマトや唐辛子が使われてるだろ?これがこの文明の特徴なんだ」

「はあ、すごいね…」

お店に飾られた名画は、サ〇ゼリヤのものとは違って魔法でグニョグニョ動く。アニメーションの技術があるのはすごいが、その動き方は薄気味悪かった。

「それにしてもタカナシ、外がなんか騒がしくないか?」

ソムチャーイがそういうので、僕は口もとを拭いて、ちょっと窓の外を覗いてみた。

「あ、あれは…!!」

その時、街には恐ろしい軍勢が来ていた。それはドラゴニック・モンゴル軍である。馬の代わりにドラゴンを使う闇の帝国である。

「きゃーー!ドラゴニック・モンゴル軍よ!」

「うわー!街が焼き払われる!」

逃げ惑う市民。焼かれる街。立ち上る煙。屈強なモンゴル兵に、空を舞うドラゴンの咆哮。そこは戦場となっていた。

「これはまずい、とりあえず逃げるぞ!」

店を出た僕とソムチャーイは、とりあえず走った。だが、モンゴル兵に見つかってしまう!

「くくく… てめえら異世界人か… 腕試しにはちょうど良いぜ…」

「そ…ソムチャーイ、このモンゴル兵、日本語みたいな言葉を喋ってるぞ!?」

「タカナシくん……お前の国には『源義経がチンギスハンになった』という今時誰も信じないような噂があるだろ。この世界はな、その噂が現実化した世界なんだ!!」

「はっはァ!モンゴル魔導武士の実力を思い知れ!」

日本刀を持ったモンゴル兵の鋭い斬撃!だが、ソムチャーイはそれを回避!えぐれる大地!そして!

「こっちこそ!異世界流の魔法を見せてやるぜッ!!」

そう言うと、ソムチャーイは両手に炎を纏い、モンゴル兵にぶち放ったッ!!

「バーニング!トム・ヤム・ペッパー・バースト!!!!」

「うおっ!?なんだこの炎は!?」

猛烈な炎につつまれるモンゴル兵。いや、モンゴル魔導武士。この威力なら、数秒で炭になってしまうだろう。ソムチャーイは自慢げに言った。

「ふっ…オレの家系はアトランティス王族の血を引いていてな……オレはこの世界に来る前から魔法の達人なんだ」

「え、そうなの!?親戚なのに初耳!」

「ああ。だけどタカナシ、お前もアトランティスの血を引いてるんだからな!」

「えええー!?」

日本人のオレも、頑張れば魔法を使えるのか!?両手を交互に見て、力を込めてみるが何も起きなかった。そうする内に、炎の中からモンゴル兵が出てきた。

「くくく… バーニング・トム・ヤム・ペッパー・バーストか… 大した威力だ」

モンゴル兵は服にちょっぴり焦げ目がついているだけで、まったく火傷を負っていない。これにはさすがのソムチャーイも驚いた。

「な、なぜオレのアトランティス魔法が効かない!?」

「簡単なことさぁ… それは、アトランティス魔法よりもドラゴニック・モンゴル魔法の方が強いからだよォッ!!!はあああああ!!!!」

モンゴル兵の体に緑色のオーラがうずまく!

「時の果てに沈め!!究極獄焔魔法、ドラゴニック・ワビ・サビ・ワサビバーストォオオオオオ!!!!!」

……ガタン。

気がつくと、僕たちはクローゼットの前に戻っていた。

「ふう、危ないところだったな。まさかモンゴル魔導武士があんなに強いとは……」

「ソムチャーイくん、あれはもう別物だと思うよ……」

ソムチャーイは、クローゼットに再び手を当てていた。

「それじゃあ気を取り直して、別のとこ行くか。たしかタカナシは、かぐや姫の小説を書くんだよな。よ〜し、次は、奈良時代の『月』に行ってみるか〜」

クローゼットを開けようとするソムチャーイ。叫ぶ僕。

「もうやめて〜〜!」

チャンチャン♪